「1か月単位の変形労働時間制を導入しよう!完全ガイド」byケアマネ社労士@横浜

みなさんこんにちは。ディライト社会保険労務士事務所の正躰です。

前回の続きとなりますが、まずは前回について振り返って見ます。
前回は「医療・介護現場の夜勤シフトの注意点」として、
医療・介護現場の夜勤シフトを組む際の注意点として、夜勤は原則1日勤務扱いとなり、
残業代の支払いが必要になる旨を説明してまいりました。
ただ、残業代の支払いについては「1か月単位の変形労働時間制」の導入を行うことで、
1日8時間を超える労働しても残業代が発生しない!!という所まで説明したかと思います。

さて、本日は具体的に1か月単位の変形労働時間制」の導入を行う手順を説明してまいります。
題して「1か月単位の変形労働時間制を導入しよう!完全ガイド!!

1か月単位の変形労働時間制とは?

1か月単位の変形労働時間制とは、1か月以内の一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間以内(特例措置対象事業場は44時間以内)となるように、労働日および労働日ごとの労働時間を設定することができる制度です。

◆制度のメリット

この制度を導入すると、以下のようなメリットがあります。

  • 特定の日に8時間を超える労働時間を設定できる
  • 特定の週に40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超える労働時間を設定できる
  • 繁忙期と閑散期に合わせた効率的なシフト作成が可能

ただし、労使協定または就業規則などにより、変形期間の各日、各週の労働時間をあらかじめ特定しておかなければなりません。これにより、あらかじめ定めた時間まで労働させても労働基準法第32条に違反せず、割増賃金の支払も必要ありません。

◆どんな業種に向いている?

1か月単位の変形労働時間制は、以下のような業種で多く導入されています:3

業種具体例
美容業美容室、ネイルサロン、マツエクサロン
運送業ドライバー業務
医療業クリニック
保健・福祉業訪問介護
飲食業カフェ、居酒屋
小売業雑貨店、アパレルショップ

1か月の中で繁忙期と閑散期がある、1日の労働時間が一定ではない、休日が固定できないなど、法定労働時間(1日8時間以内、1週間40時間以内)で労働時間を定めることが難しい業種に適しています。

◆導入に必要な4つの要件

1か月単位の変形労働時間制を導入するには、労使協定または就業規則その他これに準ずるものに、以下の4つの事項すべてを定める必要があります。

① 対象労働者の範囲

 誰に適用するかを明確にする必要があります。

 記載例:
 ・全従業員
 ・営業部門の従業員のみ
 ・パートタイマーを除く正社員

 法令上、対象労働者の範囲について制限はありませんが、その範囲は明確に定める必要があります。


② 対象期間および起算日

 対象期間および起算日は、具体的に定める必要があります。

 記載例:
 「毎月1日を起算日とし、1か月を平均して1週間当たり40時間以内とする」

 なお、対象期間は1か月以内の期間に限ります。最大1か月ですが、たとえば「2週間」や「4週間」を変形期間としても構いません。


③ 労働日および労働日ごとの労働時間

 シフト表や会社カレンダーなどで、対象期間すべての労働日ごとの労働時間をあらかじめ具体的に定める必要があります。
 その際、対象期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えないよう設定しなければなりません。
 また、1か月単位の変形労働時間制の要件においては、始業時刻・終業時刻を定めることまで要件としていませんが、始業時刻・終業時刻は就業規則の絶対的記載事項(労基法89条)であるため、実務的には始業時刻・終業時刻まで明確に定める必要があります。

重要な注意点:
特定した労働日または労働日ごとの労働時間を、使用者が業務の都合によって任意に変更することはできません。


④ 労使協定の有効期間(労使協定の場合のみ)

 労使協定を定める場合、労使協定そのものの有効期間は対象期間より長い期間とする必要があります。

 1か月単位の変形労働時間制を適切に運用するためには、3年以内程度とすることが望ましいでしょう。


◆労働時間の上限はどう計算する?

対象期間を平均して40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えないようにするための上限時間は、以下の計算式で算出します:

計算式:

1週間の法定労働時間40時間(44時間)× 対象期間の暦日数 ÷ 7 = 上限時間

対象期間が1か月の場合の上限時間

週の法定労働時間40時間の場合

月の日数上限時間
28日160時間
29日165.7時間
30日171.4時間
31日177.1時間

週の法定労働時間44時間の場合(特例措置対象事業場)

月の日数上限時間
28日176時間
29日182.2時間
30日188.5時間
31日194.8時間

注意:法定労働時間の総枠の端数は、切り上げることができません。


◆導入方法は2パターン

導入方法は、事業場の従業員数によって異なります。

【常時使用する労働者が10人以上の事業場】

以下の2つの方法で導入可能です:

導入方法必要な手続き
労使協定による導入□ 労使協定の締結
□ 所轄労働基準監督署への届出
□ 従業員への周知
□ 就業規則の変更・届出(労働時間に変更がある場合)
就業規則による導入□ 就業規則への規定
□ 所轄労働基準監督署への届出
□ 従業員への周知

重要: 労使協定の締結により導入する場合であっても、労働時間に関する事項に変更があり就業規則に変更が生じる場合には、就業規則変更届も労基署へ届出する必要があります。


【常時使用する労働者が10人未満の事業場】

以下の2つの方法で導入可能です:

導入方法必要な手続き
労使協定による導入□ 労使協定の締結
□ 所轄労働基準監督署への届出
□ 従業員への周知
就業規則に準ずるものによる導入□ 「就業規則に準ずるもの」への規定
□ 従業員への周知徹底
□ 所轄労働基準監督署への届出は不要

ポイント: 常時10人未満の事業場で「就業規則に準ずるもの」に規定して導入する場合、所轄労働基準監督署への届出は不要です。ただし、従業員への周知は義務となります。


◆労使協定で導入する場合の届出書類

労使協定を締結して導入する場合、以下の書類を所轄労働基準監督署に届け出る必要があります:

書類名内容
1か月単位の変形労働時間制に関する協定届(様式第3号の2)所定の様式
労使協定書上記4要件(対象労働者の範囲、対象期間および起算日、労働日および労働日ごとの労働時間、労使協定の有効期間)を記載
勤務カレンダー対象期間中の労働日と労働時間が分かるもの

◆休日の取扱いについて

休日の原則

1か月単位の変形労働時間制を適用している場合でも、原則として毎週少なくとも1日以上の休日を与えなければなりません。

ただし、変形休日制により、4週間を通じて4日以上の休日を与えることも可能です。変形休日制を導入するためには、就業規則その他これに準ずるものにより、4週間の起算日を定めることが必要です。


休日の振替は可能?

1か月単位の変形労働時間制を導入している場合でも、休日の振替は可能です。

ただし、以下の2つの条件を満たす必要があります:

 ・就業規則に休日の振替を行う場合がある旨を定めていること
 ・あらかじめ振り替える日を特定しておくこと

注意点:
休日の振替により以下のようになった場合、超えた時間については時間外労働となり、割増賃金の支払が必要です。

 ・所定労働時間が1日8時間を超えない日に8時間を超えて労働させた場合
 ・1週40時間を超える所定労働時間が設定されていない週に40時間を超えて労働させた場合

具体例:
1か月単位の変形労働時間制を採用し、日曜休日・月曜10時間・火曜日~土曜日6時間の勤務スケジュールの場合で、日曜の休日を月曜に振り替えた場合:

休日を月曜日に振替した結果、振替出勤した日曜日は1日8時間を超える所定労働時間が設定されていない日であるため、10時間労働したうち8時間を超える2時間は時間外労働になります。


◆導入時の注意点

✓ 1日の労働時間に上限はない

1か月単位の変形労働時間制の場合、1か月の1週平均労働時間が40時間以内(特例措置対象事業場は44時間以内)、各週、各日の始業、終業時刻が定められていれば、特定の日の勤務時間に制限はありません。

例えば、ある日は10時間、別の日は6時間などの設定が可能です。


✓ 労働者への周知が義務

労使協定や就業規則は、労働者への周知が義務付けられています。


✓ 36協定の締結も忘れずに

1か月単位の変形労働時間制を導入しても、法定労働時間を超える残業をさせる場合は、別途36協定の締結・届出が必要です。


◆まとめ

1か月単位の変形労働時間制は、業務の繁閑に合わせて柔軟に労働時間を設定できる便利な制度です。

導入にあたっては、以下のポイントを押さえましょう:

チェック項目内容
□ 4つの要件を定める対象労働者の範囲、対象期間および起算日、労働日および労働日ごとの労働時間、労使協定の有効期間(労使協定の場合)
□ 労働時間の上限を守る対象期間を平均して週40時間以内(特例措置対象事業場は44時間以内)
□ 適切な届出を行う事業場の規模に応じた届出手続き
□ 従業員への周知労使協定や就業規則、シフト表の周知
□ 36協定の締結時間外労働をさせる場合は必須

あらかじめ定めた労働日・労働時間を、使用者が業務の都合によって任意に変更することはできないという点に注意しながら、適切に制度を運用しましょう。

導入したいけど時間が足りない皆様!!またいまいち制度が???な皆様!!
お気軽にディライト社会保険労務士事務所へご相談ください。

以上