36協定の「書き方」をやさしく解説 ~残業・休日出勤をさせる前に必ず押さえたいポイント~ byケアマネ社労士@横浜

明けましておめでとうごうざいます。
ディライト社会保険労務士事務所の正躰です。

令和8年になり、早くも5日が過ぎました。
本日から仕事始め、という方も多いのではないでしょうか。
さて、年が明けると毎年そろそろ準備に取りかかる“お決まりの業務”があります。
そう、「36協定届」です。

新年度に向けて、新たに36協定届を締結する会社も多い時期ですね。
実は私自身、人事担当だった頃はというと……
年明けの段階では
「36協定、やらなきゃな。でも4月まではまだ時間があるし」
と、つい後回し、また後回し。
そして気がつけば3月。
慌てて付け焼き刃のような36協定届を作成し、かなり簡略版の内容でまとめて、3月31日に労働基準監督署へ提出——
そんなことが1度や2度ではありませんでした……。
やはり、36協定届はこの時期から少しずつ準備を進め、余裕をもって対応したいものですね。

そこで今回は、改めて「36協定届」について正しい知識を整理し、皆さまにお伝えできればと思い、次のような内容をまとめてみました。ぜひ皆さまも、期限に余裕を持ち、正しい知識を踏まえたうえで、36協定書の作成に取り組んでみてはいかがでしょうか。

◆36協定とは何か ― 書く前に「位置づけ」を整理

36協定の法的な意味

法定労働時間:原則1日8時間・1週40時間
法定休日:1週間に少なくとも1日、または4週間で4日以上

この「法定」を超えて、
・残業(時間外労働)をさせる
・法定休日に出勤させる

ためには、労働基準法36条に基づく労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署へ届出することが必須です。
ここで重要なのは、36協定には次の2つのステップが揃ってはじめて効力が生じるという点です。

ステップ1 会社と従業員代表との間で「労使協定書」を締結する
ステップ2 その内容を「36協定届」に記載し、労働基準監督署へ届出する

この2つが揃っていない状態で1分でも法定時間を超える残業をさせると、法令違反となり、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象となります。

36協定は「残業命令の根拠」ではない

36協定の効力は、あくまで「上限を超えた場合の罰則を外す(免罰効果)」にとどまります。
つまり、36協定を出しただけでは、従業員へ残業を命じる権限は生じません。

実際に残業命令を行うには、別途

・就業規則に「36協定の範囲内で時間外・休日労働を命じることがある」旨を明記
・労働条件通知書・雇用契約書に「時間外労働の有無(あり)」を記載

といった、社内規程・契約での根拠付けが必要になります。

◆36協定が「必要になる」ケースと「不要な」ケース

「所定」と「法定」を分けて考える

36協定が必要かどうかは、「所定労働時間」ではなく「法定労働時間」を基準に判断します。

・所定労働時間:会社が就業規則等で定めた1日の労働時間(例:9:00〜17:30/実働7.5時間)
・法定労働時間:法律で定められた上限(原則1日8時間・1週40時間)

例:
9:00〜17:30(休憩1時間)=実働7.5時間の会社で、18:15まで働いた場合

17:30〜18:00(30分): 所定外だが「法定内」労働(=時間外労働ではない)
18:00〜18:15(15分): 法定時間(8時間)を超える「時間外労働」=36協定が必要な部分

休日労働の場合

・法定休日:週1日または4週4日以上
・所定休日:法定休日以外に会社が定めた休日

日曜を法定休日、土曜も休日と定めている会社で、

・土曜出勤:所定休日労働(「所定外労働」の扱い)
・日曜出勤:法定休日労働(36協定が必要+35%以上の割増賃金)

36協定の2つのタイプ ― 一般条項と特別条項

36協定は、大きく次の2種類です。

種類使う場面主な上限
36協定(一般条項)残業時間が法律上の「限度時間」の範囲内で足りる月45時間、年360時間(※1年変形は月42h・年320h)
36協定(特別条項)一般条項の限度時間(月45時間など)を超える残業が、臨時的に必要になる年720時間以内、月45h超は年6回まで、時間外+休日の合計は月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内

特別条項の「臨時的な特別の事情」とは、

・通常予見できない業務量の大幅な増加
・大規模クレーム、災害対応 など

であり、「毎年の繁忙期」のように予測可能な繁忙は含まれません。恒常的な繁忙を前提とした長時間労働は、36協定の枠組みの外という整理になります。

◆書く前に必ず決めておく7つのこと

36協定届の様式に直接書き込み始める前に、少なくとも次の7点は社内で整理されていることが望ましい内容です。

1.協定の対象期間と起算日
・通常は「毎年○月1日〜翌年○月末日」の1年間
・「1か月」の起算日がどこになるかも意識

2.対象となる事業場と従業員数
・協定は事業場単位
・正社員・パート・アルバイト・契約社員を含め、時間外・休日労働をさせる可能性がある人数をカウント(管理監督者・18歳未満は原則含まない)

3.時間外・休日労働をさせる具体的な理由・業務の種類
・「業務の都合上必要なとき」程度では不十分
 例:納期変更、受注の集中、棚卸、決算事務、クレーム対応 等

4.延長時間の上限(1日・1か月・1年)
・1日あたり何時間まで延長するか
・1か月、1年の上限をどう設定するか
・1か月の所定労働時間が月によって変わる場合は、対象期間中でもっとも長くなる月を基準に記載

5.法定休日労働の上限と、法定休日の始業・終業時刻
・何日まで法定休日に働かせるか
・シフト制で時間が一定でない場合は「8時間」など時間数で記載してもよい

6.特別条項を付けるかどうか(付けるなら、その内容)
・特別の事情の具体的内容
・限度時間を超える回数(年6回以内)
・1年の時間外労働上限(720時間以内)
・月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内の設定
・割増賃金率と健康確保措置、社内の発動手続

7.労働者代表の選出方法と記録
・過半数労組がない場合は、「過半数代表者」を
・管理監督者ではない
・使用者の意向によらず、投票・挙手など民主的手続で選出
・選出の過程は、後から説明できるようメモ・議事録等を残しておく

◆様式の選び方 ― どの36協定届を使うか

標準的なケースでは、厚生労働省の次の様式を使用します。

・一般条項のみ:様式第9号「時間外労働・休日労働に関する協定届(一般条項)」
・特別条項付き:様式第9号の2「時間外労働・休日労働に関する協定届(特別条項付き)」

また病院やクリニックは上記の協定書とは異なり

・一般条項のみ:様式第9号の4「時間外労働・休日労働に関する協定届(一般条項)」
・特別条項付き:様式第9号の5「時間外労働・休日労働に関する協定届(特別条項付き)」

を使用する必要があります。その他、建設業で「災害時の復旧・復興事業」を行う場合など、特殊な様式(第9号の3の2など)を用いるケースもありますが、一般的な事業場では上記の様式を使うことになります。

詳しくは以下、厚労省HPを参照ください。
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/36_kyoutei.html

◆36協定届の主な記載項目と書き方のポイント

ここでは36協定届(一般条項および特別条項を含めた)「典型的なケース」の項目を順に説明します。

1.事業場情報
・事業の名称・所在地・電話番号
・業種(事業の種類)
・労働保険番号・法人番号(2024年4月1日以降対象期間の協定は必須)
→ 複数事業場がある場合、本社一括届出を使うかどうかで記載方法が変わりますが、いずれにしても事業場単位で協定書自体を締結しておく必要があります。

2.対象労働者数
・満18歳以上で、時間外・休日労働をさせる可能性のある人数を記載
・正社員・契約社員・パート・アルバイトをすべて含める
・派遣労働者は派遣元の36協定の対象のため含めない

3.協定の有効期間・起算日
・「自 令和○年○月○日 至 令和○年○月○日」
・原則、1年間で設定するケースが多い
・起算日:対象期間の初日が、そのまま「1か月」の起算日となる扱い

4.時間外・休日労働をさせる必要がある具体的事由
抽象的な表現ではなく、自社で想定される場面を具体的に列挙します。例えば:
・納期の変更または短縮があったとき
・短期的な受注の集中または臨時の受注があったとき
・製品の不具合・クレームへの対応が必要なとき
・月末・期末の決算事務、棚卸業務が必要なとき
など、自社の業種・業務に即した内容に置き換えて記載するとよいでしょう。

5.対象業務の種類
・すべての業務を対象とするのか
・生産部門のみ、営業部門のみ、など範囲を限定するのか
業務の範囲を広くしすぎると、実態との乖離が生じやすくなります。一方で、細かく区分しすぎると運用が煩雑になりますので、社内の実情に合わせてバランスを取ることが必要です。

6.時間外労働の延長時間(一般条項)
・1日:例)2時間まで
・1か月:例)45時間まで
・1年:例)360時間まで
1か月については、所定労働時間が月により変動する場合、対象期間内で最も長くなる月を基準に延長可能時間を設定し、記載します。

7.休日労働をさせる法定休日の日数・始業終業時刻
・1年間に法定休日に労働させることができる日数
・始業および終業時刻:シフト制などで一定にできない場合は、「1日8時間」など労働時間数の記載でも可

8.特別条項を設ける場合の追加記載
特別条項付き様式(第9号の2)では、次の内容を必ず記載します。
・臨時的に限度時間(月45時間)を超えて労働させる必要がある場合の具体的事由。
 「業務の都合上必要な場合」は不可
 例:大規模なシステム障害、通常予見できない規模のクレーム対応など
・限度時間(月45時間)を超えることができる回数(年6回以内)
 その場合の
 1年の時間外労働の上限(720時間以内)
 1か月の時間外労働+休日労働の合計(100時間未満)
 2〜6か月平均での時間外+休日労働時間(1か月あたり80時間以内)
・限度時間を超えた労働に対する割増賃金率
 法定を上回る割増率を定める場合、その率を明記
・限度時間を超える場合にとる手続
 事前に労使委員会で協議する
 所属長→人事部門への申請・承認フローを定める など
・限度時間を超えて労働させる労働者の健康・福祉確保措置
 医師面接指導、勤務間インターバル、連続休暇付与、深夜業の回数制限などから具体的な措置を明記

◆労働者代表欄・チェックボックス欄の注意点

労働者代表の選出要件

様式上、「従業員代表は適正に選出されたか」のチェックボックスがあります。
ここが未チェックだと受理されないため、選出要件を満たしているか事前確認が重要です。

労働者代表となれるのは、次の要件をすべて満たす者です。

・管理監督者(部長・工場長など)ではないこと
・「36協定を締結する者を選出すること」を明示したうえで投票、挙手等の民主的な手続で選ばれていること
・使用者の意向で指名された者でないこと

なお、様式上の「職名」欄には役職名(係長・主任など)を記載する欄であり、部署名ではない点にも注意が必要です。
管理監督者と疑われる職名の場合、備考欄等で「非管理監督者」である旨を明記することもあります。

◆押印・署名の扱い ― 「今どきの」36協定の実務

36協定届の押印・署名は原則不要になっている

2021年4月以降の新様式では、36協定届そのものには、使用者・従業員代表双方の押印・署名は不要となりました(記名は必要)。
ただし、ここで注意したいのが、

・「36協定届」と「労使協定書」を別書類として作成するのか
・それとも、「36協定届」を「労使協定書」と兼ねてしまうのか

という点です。

36協定届と労使協定書の関係

・36協定届:労働基準監督署に提出する、決まった書式の届出書
・労使協定書:会社と従業員代表の間で取り交わす、任意書式の協定書。本来、口頭では成立せず「書面」が必要

パターン1:労使協定書を別途作成している場合
・労使協定書:労使双方の署名または記名押印あり
・36協定届:その内容を転記した届出書(記名のみで押印・署名不要)
この場合は、36協定届に押印・署名がなくても問題ありません。

パターン2:36協定届を労使協定書と兼ねる場合
・36協定届そのものに、労使双方の署名または記名押印が必要
・押印・署名のない36協定届だけでは、協定書として成立しないため注意が必要です。
電子申請では、システム上「従業員代表の記名押印」ができないため、別途紙の労使協定書を作成しておくことが前提となります。

◆電子申請・本社一括届出を利用するときの留意点

電子申請(e-Gov等)では、基本的に36協定届の項目を画面上で入力します。
入力欄に収まりきらない場合、詳細を記載した労使協定書を添付することが可能です。

複数事業場を「本社一括」で届出する場合でも、
・各事業場ごとに労使協定書自体は締結しておき
・協定内容が一定範囲で同一であること 等の条件を満たす必要があります。

◆36協定の「更新・変更」で押さえておきたいこと

有効期間が切れた後は、新協定の締結+届出が完了するまで、時間外・休日労働は違法となります。
また36協定は遡って効力を発生させることはできません。後から届出をしても、「届出日以降」にしか効力が及びません。
内容を変更したい場合(延長時間の見直しなど)も、協定の再締結+再届出が必要になります。
なお、協定書に記載した労働者数の増減や、労働者代表の交代だけであれば、協定の再締結までは通常不要です。

◆まとめ:36協定「書き方」のチェックリスト

36協定を書き上げた後に、最低限、次の点を確認するとよいでしょう。
・協定の種類(一般条項/特別条項)が実態に合っているか
・法定の上限(45時間・360時間/特別条項の720時間等)を超える記載になっていないか
・「1か月100時間未満」「2〜6か月平均80時間以内」のチェック欄に漏れなくチェックされているか
・未チェックだと協定届が無効・不受理となります
・時間外・休日労働の「具体的事由」が、抽象的な一言で済まされていないか
・労働者代表が、管理監督者ではなく、民主的手続で選出されているか
・労使協定書と36協定届の関係(兼ねるのか/別で作るのか)が明確か
・兼ねる場合は労使双方の署名または記名押印がされているか

こちらでは、36協定届の基本的な位置づけから、実際の書き方・チェックポイントまでを一通り整理しました。
残業や休日出勤が日常的に発生している事業場では、「とりあえず毎年更新している書類」になりがちですが、協定内容と実態がかけ離れている場合には、協定そのものが無効と判断されるおそれもあります。
改めて、
・法定と所定の違いを押さえたうえで延長時間を設定しているか
・時間外労働の上限や特別条項の要件を満たしているか
・従業員代表の選出手続きが適正か
・協定書と協定届の役割分担(署名・押印の要否を含む)が整理されているか
といった点を確認していただくことで、自社の36協定が「形だけの書類」から、「安全配慮とコンプライアンスを両立させるための実務ツール」に近づいていきます。

もしも、より詳しい文例や、自社の業種・体制に合わせた書き方のポイントが必要でしたら、
御社の業種、事業場数(本社・支店の有無)、労働組合の有無などをお知らせいただければ、より具体的なレベルでの整理も可能です。
その際には是非、ディライト社会保険労務士事務所へ、お気軽にお問い合わせください。
問い合わせフォーム:https://delight-sr.com/contact/

以上