医療・介護現場の残業・36協定違反を防ぐための10のポイント byケアマネ社労士@横浜
先日は「36協定の「書き方」をやさしく解説 ~残業・休日出勤をさせる前に必ず押さえたいポイント~」と題して、36協定作成の際のポイントを解説しました。
本日は、さらに一歩話を進めて「36協定違反を防ぐための10のポイント」について解説してまいります。
「命を守る現場」と「働く人の健康」を両立させるために是非とも確認ください。
一部、前回の解説と被る部分もありますが、復習と思い確認いただけれ幸いです。
医療・介護の現場は、24時間体制・急変対応・人員配置基準などの事情から、どうしても長時間労働が発生しがちです。その一方で、働き方改革関連法により、時間外労働の上限(原則:月45時間・年360時間、特別条項がある場合でも年720時間など)が厳格に定められ、36協定違反に対する行政指導・罰則リスクも高まっています。
病院・診療所・訪問看護・老健・特養・有料老人ホーム・通所系事業所などを含む「医療・介護現場」全体を対象に、残業と36協定違反を防ぐための10の実務的な対策を整理します。
目次
- 1 対策1:まず「法定」「所定」「夜勤・宿日直・オンコール」の線引きを全員でそろえる
- 2 対策2:36協定の「一般条項・特別条項」を実態に合わせて設計し直す
- 3 対策3:過半数代表者を正しく選出し、「無効な協定」を避ける
- 4 対策4:勤怠を「リアルタイム」で見える化し、上限に届く前に止める
- 5 対策5:シフト・当直体制を「上限時間」から逆算して設計する
- 6 対策6:業務を棚卸しし、「やめる仕事」「時間内に終わらせる仕事」を決める
- 7 対策7:急変・オンコール・看取りなど「突発残業」のパターンを事前に決めておく
- 8 対策8:特別条項を使う部署には、実際に回せるレベルの「健康確保措置」を入れる
- 9 対策9:就業規則・雇用契約で「残業命令のルール」を整える
- 10 対策10:管理職・現場リーダーに「36協定と健康リスク」を継続的に周知する
- 11 おわりに:36協定を「現場と人を守るツール」として活かす
対策1:まず「法定」「所定」「夜勤・宿日直・オンコール」の線引きを全員でそろえる
医療・介護現場では、日勤・準夜・深夜・当直・オンコール待機など勤務形態が多様で、「どこからが36協定の対象となる時間外・休日労働なのか」が曖昧になりがちです。
基本となる考え方は共通です。
- 法定労働時間:原則1日8時間・週40時間
- 法定休日:週1日または4週4日以上
これを超えた部分が「時間外労働」「法定休日労働」であり、36協定がなければ1分でも違法になります。
そのうえで、現場では次の点を整理しておくことが重要です。
- 日勤などの「所定労働時間」と法定労働時間の違い
- 宿日直が本当に「軽度・短時間の業務」か、それとも通常勤務並みの負荷になっていないか
- 自宅待機のオンコール時間と、実際に呼び出されて働いた時間の区別
就業規則・シフト表・勤怠システム上でこの線引きを明確にし、管理者・師長・施設長・リーダーが同じ認識を持つことで、「気づかないうちの36協定違反」を防ぎやすくなります。
対策2:36協定の「一般条項・特別条項」を実態に合わせて設計し直す
医療・介護現場では、感染症流行期や看取りが重なる時期などに、月45時間を超える時間外労働が発生しやすい一方、「毎年同じ数字で更新」されている36協定も少なくありません。
しかし、36協定には明確な枠があります。
- 一般条項(基本形)
- 時間外労働:月45時間・年360時間以内
- 特別条項(臨時的な特別の事情がある場合)
- 時間外労働:年720時間以内
- 時間外+休日労働:単月100時間未満
- 同:2~6か月平均で1か月あたり80時間以内
- 月45時間超は年6か月まで
対策としては、次のような手順が有効です。
- 直近6~12か月の残業実績を、職種別・部署別に集計
- 一般条項のみで足りる部署と、特別条項が必要な部署を切り分ける
- 特別条項を付ける場合、「臨時的な特別の事情」を
- 通常予見できない感染症の大流行
- 大規模クレームや訴訟対応
- 近隣医療機関の急な閉鎖による一時的患者集中
など、具体的に記載し、「業務の都合上必要なとき」等の抽象的表現は避ける
協定自体が法令の上限を超えていないか、特別条項の要件を満たしているかも必ず確認します。
対策3:過半数代表者を正しく選出し、「無効な協定」を避ける
形式的に36協定があっても、労働者代表の選出手続が不適切だと、協定自体が無効と評価されるリスクがあります。
過半数代表者には、次の要件が必要です。
- 管理監督者(経営者と一体とみなされる立場)ではない
- 「36協定の代表者を選出する」ことを明示したうえで、投票・挙手など民主的な手続で選ばれている
- 使用者が一方的に指名していない
医療・介護現場では、看護師長や介護主任などをそのまま代表にしてしまうケースが散見されますが、職位だけで管理監督者と決めつけるのは危険です。実態として勤務時間の裁量や人事権がない場合は、非管理監督者として代表になれることもありますので、役割と権限を確認のうえで判断するとよいでしょう。
代表選出の方法・投票結果などは簡単でもよいので記録を残し、様式のチェックボックスにも忘れずチェックを入れることが必要です。
対策4:勤怠を「リアルタイム」で見える化し、上限に届く前に止める
働き方改革関連法により、時間外労働の上限は以下のとおり厳格化されています。
- 原則(一般条項):月45時間・年360時間
- 特別条項がある場合:
- 時間外:年720時間以内
- 時間外+休日:単月100時間未満
- 同:2~6か月平均80時間以内
この規制は「月末に集計してから」では間に合いません。特に医療・介護では、急な入退院・オンコール出動などで、数日で一気に時間が積み上がることがあります。
実務上は、次のような運用が望ましいです。
- 勤怠システムで、「時間外+休日労働」の累計を日次で集計
- 1か月45時間・80時間・100時間に近づいた段階で、自動アラートが管理者・本部に届く仕組み
- 複数部署を兼務している職員や、同一法人内で複数事業所勤務している職員の時間を一元的に管理
「すでにA病棟で今月40時間残業している看護師に、外来の応援でさらに残業をお願いしてしまう」といった事態を防ぐためにも、リアルタイムの見える化は不可欠です。
対策5:シフト・当直体制を「上限時間」から逆算して設計する
残業・36協定違反の多くは、実は「そもそものシフト設計」に原因があります。
医療・介護現場でよく見られるパターンとしては、次のようなものがあります。
- 最低人員だけで日勤・夜勤を組み、欠員や急変をすべて残業で吸収している
- 夜勤明けの記録・カンファレンス・ご家族対応を、残業前提の「暗黙の運用」にしている
こうした状況を改めるために、シフト設計時点で次を意識します。
- 正職員1人あたりの想定時間外労働が、原則として月45時間以内に収まる人員配置にする
- 流行期・繁忙期など特別条項の活用を前提とする月は、年6か月以内にとどめる「年間計画」を事前に作る
- 夜勤明けの記録やカンファレンス時間を、あらかじめ所定内労働時間に組み込んだシフトに見直し、「夜勤明け残業」を前提にしない
- 入退院が集中しやすい曜日・時間帯、看取りが予想される時間帯には、計画的に増員シフトを組む
また、特定の職員にだけ残業が集中しないよう、職員ごとの残業実績を見ながらシフトを調整する仕組みも重要です。
対策6:業務を棚卸しし、「やめる仕事」「時間内に終わらせる仕事」を決める
医療・介護現場では、患者・利用者対応以外にも、以下のような付帯業務が膨らみがちです。
- 紙カルテと電子カルテの二重記録、複数帳票への同じ内容の転記
- 各種委員会・研修・勉強会・カンファレンスが、時間外前提で設定されている
- レクリエーション準備、物品管理、家族連絡、クレーム対応 など
こうした業務を放置したまま、「現場の頑張り」で残業を埋めていると、36協定違反のリスクは高まる一方です。
そこで一度、業務棚卸しを行い、次のように整理します。
- 直接ケア・診療に直結する業務と、間接業務・付帯業務を分けて洗い出す
- 各業務の標準時間を設定し、所定労働時間内で本当に収まるか検証する
- 二重記録・不要帳票・形骸化した会議などを整理し、「やめる仕事」「簡略化する仕事」を明文化する
「時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめる」という指針の趣旨に沿うためにも、業務そのものを見直すことが欠かせません。
対策7:急変・オンコール・看取りなど「突発残業」のパターンを事前に決めておく
医療・介護では、どうしても避けられない突発的な残業があります。
- 急変・救急搬送・緊急手術
- 夜間の看取り対応・ご家族への説明
- オンコールによる夜間出動 など
これらをすべて「特別条項があるから」で処理していると、年720時間や複数月平均80時間の上限をすぐに超えてしまいます。
そこで、あらかじめ次のような「対応パターン」を決めておきます。
- 急変や長時間の家族対応が見込まれる場合は、夜勤複数名体制や遅番増員で事前に備える
- オンコール出動が複数回に及んだ場合、翌日の早退・代休・夜勤免除などを必ずセットで行う
- 突発残業が発生した場合は、直近のシフトで「早上がり・代休」を組み込むことを師長・施設長の責任とする
このように「残業しっぱなし」にならない設計にすることで、結果として36協定の範囲内に収まりやすくなります。
対策8:特別条項を使う部署には、実際に回せるレベルの「健康確保措置」を入れる
特別条項付き36協定を締結し、限度時間(月45時間・年360時間)を超える時間外労働を行う可能性がある場合、協定には必ず「健康及び福祉を確保するための措置」を記載する必要があります。
例として、次のような措置が挙げられます。
- 一定時間を超えた労働者への医師面接指導(例:月70時間超で申出により面接実施)
- 深夜業(22~5時)の回数制限(例:深夜勤務は月3回まで)
- 勤務間インターバル(終業から次の始業までの連続休息時間、例:11時間以上)
- 代償休日・特別休暇の付与
- 追加の健康診断の実施
- 年休の連続取得促進
- 心とからだの相談窓口の設置 など
医療・介護現場では、特に「深夜業の回数制限」「勤務間インターバル」「特別休暇」の3つは運用に乗せやすいことが多い印象です。
注意すべき点は、「協定書に書いただけで実際には運用されていない」健康確保措置は、監督署のチェックで問題視され得るということです。
現場で確実に実施できる内容・水準に落とし込んで記載し、運用フローまで含めて整備することが重要です。
対策9:就業規則・雇用契約で「残業命令のルール」を整える
36協定は、あくまでも「法定時間を超えた場合の罰則を外す」ための協定であり、それ自体が残業命令の根拠にはなりません。
実際に医師・看護職・介護職・コメディカル・事務職などに時間外・休日労働を命じるには、別途次の整備が必要です。
- 就業規則に
- 「36協定の範囲内で時間外・休日労働を命じることがある」旨を規定する
- 労働条件通知書・雇用契約書に
- 「時間外労働の有無:あり」と明記する
これにより、
- サービス残業(黙示の延長勤務)ではなく、
- 明示的な命令・管理のもとで、時間外労働を適切に把握し、割増賃金を支払う
という筋の通った運用が可能となります。
対策10:管理職・現場リーダーに「36協定と健康リスク」を継続的に周知する
最後に重要なのが、病棟師長・介護主任・施設長・訪問看護管理者など、現場のキーマンへの継続的な教育です。
多くの現場では、次のようなギャップが見られます。
- シフトや残業の最終判断は現場リーダーが行っている
- しかし、36協定の具体的な内容や上限規制、違反時のリスクは十分理解されていない
そこで、少なくとも以下のポイントは定期的に共有しておくことが望ましいです。
- 自院・自施設の36協定の内容(一般条項か特別条項付きか、上限時間、対象部署など)
- 時間外+休日労働について、「単月100時間未満」「2~6か月平均80時間以内」という規制の意味と計算方法
- 長時間労働と過労死・メンタル不調・医療事故との関連
- 違反時の流れ(是正勧告・送検・罰則・企業名公表)の仕組み
- サービス残業禁止と、残業申請・承認の正しい手順
こうした教育を通じて、「人が足りないから、今いる人にお願いする」という属人的な判断から、「この職員は今月すでに○時間なので、別の人に依頼する・応援を頼む」といったルールに基づいたマネジメントへ移行しやすくなります。
おわりに:36協定を「現場と人を守るツール」として活かす
介護現場の長時間労働は、職員の健康障害や離職を招くだけでなく、インシデント・アクシデントの発生、さらには行政指導や企業名公表といった重大なリスクにも直結します。
36協定は、本来「縛るための制度」ではなく、
法定の枠と現場の実態とのギャップを可視化し、
残業や休日出勤の「必要性」と「超えてはならない限界」を、労使が共通認識として確認するための大切なツールです。
本稿でご紹介した10の対策を通じて、
・法定労働時間と所定労働時間の整理
・夜勤、宿日直、オンコールの適切な線引き
・協定内容と実態のすり合わせ
・勤怠のリアルタイム管理
・シフトおよび業務設計の見直し
・特別条項および健康確保措置の適正な運用
・管理職・リーダー層への理解と教育
といった観点から、あらためて自院・自施設の働き方を点検するきっかけとなれば幸いです。
36協定を「守るための書類」ではなく、「現場と人を守る仕組み」として、より有効に活かしていきたいとお考えのご担当者様へ。
もしお力添えが必要な場面がございましたら、その際はぜひ、ディライト社会保険労務士事務所までお気軽にお問い合わせください。
👉 お問い合わせフォーム
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一緒に「無理なく続く働き方」と「安心して働ける介護現場」をつくっていきましょう。
以上


