究極の「無茶ぶり」が突きつける現代の闇:綱吉の生類憐みの令に学ぶ「過大な要求」の末路 byケアマネ社労士@横浜

◆第6回目 歴史から学ぶ労務管理シリーズ

 みなさんこんにちは。ディライト社会保険労務士事務所の正躰です。

 歴史的な事例を現代の法令に照らし合わせる。歴史系社労士のケアマネ社労士!!が送る 「歴史から学ぶ労務管理シリーズ」第6回目です。

 今回は「犬公方(いぬくぼう)」の異名で知られる江戸幕府第5代将軍、徳川綱吉さんの登場です。 綱吉さんが発布した極端な法令「生類憐みの令」について、現在のハラスメントにおける「過大な要求」に照らし合わせて考察したいと思います。

 なお、このシリーズで扱う内容は一般的によく知られている歴史的な事象を題材にしています。そのため、厳密な史実とは異なる部分もあるかもしれませんが、その点は何卒ご容赦いただき、楽しんで読み進めていただければ幸いです。

◆事例紹介:「お犬様」最優先!トップの独善が現場に強いる過剰な業務

  貞享4年(1687年)頃から、徳川綱吉は「生類憐みの令」と呼ばれる一連のお触れを次々と出しました。犬をはじめ、鳥、魚、さらには虫に至るまで、生き物を傷つけることを極端に禁じたこの法令。特に犬の保護は徹底されており、幕府の役人たちは「犬の毛色や特徴を台帳に登録する」「喧嘩をしている犬がいれば水をかけて引き離す」「お犬様の食事を手配する」といった、本来の業務とは全く無関係な対応に追われることになりました。
 少しでも手落ちがあれば、役人も庶民も厳しく罰せられる(最悪の場合は死罪や遠島)という異常事態。トップの個人的な思想が「絶対的なルール」として現場に丸投げされた結果、社会全体が疲弊していくことになりました。

◆もはや政治ではなく「狂気」。生類憐みの令が壊したもの

 綱吉が押し付けたルールは、武士や役人たちに対する単なる「新しい業務の追加」ではありませんでした。治安維持や行政という本来の重要な使命を持つ役人たちに対し、「野犬の世話」や「虫を殺した者の取り締まり」という、非現実的で遂行困難な業務を最優先させたのです。
 現代の視点で見れば、これはトップの独善によって現場に強要された「過大な要求」です。「お犬様に粗相があってはならない」というプレッシャーは、役人たちから本来の業務に割くべき時間と気力を奪い、ただひたすら「上からの理不尽な命令に怯え、表面上取り繕う」だけの硬直した組織を作り出してしまいました。

◆現代なら完全な「パワハラ(過大な要求)」。綱吉の手法を法的に斬る

綱吉の「生類憐みの令」を現代の労働基準法やパワハラ防止法に照らし合わせると、次のような違法性が浮かび上がります。

  • 業務上明らかに不要なことの強制: 役人の本来の職務(行政・治安維持)とは全く無関係な「お犬様の世話」を強要することは、パワハラの類型である「過大な要求」に該当します。
  • 遂行不可能なことの強制: 「すべての生き物を一切傷つけてはならない」という、現実的に100%達成不可能な目標を掲げ、できなければ重罰を与える行為は、理不尽極まりないハラスメントです。
  • 個人的な理念の過度な押し付け: トップの個人的な思想(宗教観や倫理観)を、業務命令として現場の労働者に過剰に押し付けることは、企業の適正な業務の範囲を逸脱しています。

◆あなたの職場にある「生類憐みの令」。過大な要求の危険な予兆

犬の世話ではなくても、現代のオフィスには「生類憐みの令」に似た過大な要求が潜んでいます。

  • 「理念」を盾にした無意味な業務: トップの思いつきで始まった実効性のないCSR活動や、過剰な朝礼・日報などに膨大な時間を割かれ、本来の営業活動や実務が滞ってしまう。
  • 本業とかけ離れた雑用: 専門職として採用されたのに、社長のプライベートな買い出しや、業務と無関係な行事の異常な準備を「これも仕事だ」と強制される。
  • 「絶対にミスをするな」という不可能な要求: 人材不足の中で到底終わらない業務量を与えられ、「残業はするな、でも期限内に完璧に終わらせろ」と矛盾した指示を出される。

これらは、現場の実態を無視したトップダウンの弊害であり、社員を確実にバーンアウト(燃え尽き症候群)へと追い込みます。

◆「お犬様」の犠牲にならない。尊厳を守るためのセルフディフェンス

もしあなたが「お犬様対応」のような過剰な業務を押し付けられたら、どう動くべきでしょうか。

  • 「業務の優先順位」を可視化する: 理不尽な指示が来た場合、現在抱えている本来の業務リストを提示し、「これをやると、本来の〇〇の業務が滞りますが、どちらを優先すべきですか?」と客観的な事実ベースで上に判断を仰ぎましょう。
  • 労働契約(職務内容)を確認する: 雇用契約書や就業規則を確認し、指示された内容が「業務の範囲」を著しく逸脱していないかチェックします。
  • 無理なものは「無理」と記録に残す: 「物理的に時間が足りない」「本来の業務に支障が出る」というアラートを、口頭だけでなくメールやチャットなど「記録に残る形」で発信しておくことが、後々自分を守る盾になります。

◆各視点での対応策:第二の「生類憐みの令」を生まないために

トップの独走による悲劇を繰り返さないための、各層へのメッセージです。

  • [経営層]: トップの個人的な理念(CSRなど)が、現場の実態とかけ離れ、社会問題や組織崩壊に発展するリスクを自覚してください。理念を持つことは素晴らしいですが、それが現場の過重労働を引き起こしていないか、トップ自身が客観的に検証する姿勢が不可欠です。
  • [管理層]: 「犬様対応」のような、本業とかけ離れた過剰な業務をそのまま部下に指示する理不尽さに気づくべきです。上層部からの「無茶ぶり」をそのまま下に流すのではなく、実務レベルに翻訳・調整し、部下が本来の業務に集中できる環境を守るのがマネージャーの真の役割です。
  • [社員層]: トップの「鶴の一声」で、非現実的な業務(お犬様の保護)を最優先させられる場合は要注意です。一人で抱え込んで疲弊するのではなく、本来の業務に支障が出ている事実を客観的にまとめ、チーム全体で声を上げるか、適切な社内・社外の窓口に相談してください。

以上にて、「徳川綱吉の生類憐みの令」をパワーハラスメント(過大な要求)の視点で考察してみました。

ディライト社会保険労務士事務所では「歴史に学ぶ労務管理シリーズ」として各種研修もご用意しております。
興味をもっていただけた経営者の皆様、担当者の皆様、ぜひ社員研修にご活用いただければと思います。

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以上